プロダクトデザイナーの石田は今回新しいGRのデザインを担当した。小さい頃からスポーツが好きで、最近開催されたテニス大会では幹事をしながらも、チームを優勝へと導いた。そんな石田には大学生の頃からずっと使い続けているテニスラケットがある。「年月とともに身体のコンディションが変化する中でも、同じものが使えるよう道具に合わせて身体を整えることを心がけている」という。永く付き合い、道具と調和することで自分の力を発揮させてくれるラケットは石田にとって大切な道具である。
GRも“撮影する道具”として長年ユーザーに使い続けられている。デザインの担当が決まったとき「歴史ある製品ゆえに、身の引き締まる思いだった」と話す。
新しいGRは、センサー、レンズ、レバーやボタンの追加など前身機からの変更が多い。「進化をアピールしながらも、今までのファンの方にも変わらず満足していただけるデザインを目指した」という。そのために石田は、とにかく“機能”と向き合った。ひとつひとつの形やその意味をあらためて細かく分解し、GRの長い歴史の中で“守るべきデザイン”を精査することから始めた。検討を続けた結果、レンズの大きさや全体的な重さのバランスが変わったことから、見た目の変化はわずかだがグリップの形状を見直した。「最適なグリップ形状を追求し、新たな形で“握りやすさ”というアイデンティティを継承した」と強く語る。
カメラだけでなく時計にも関心の高い石田は,“昔からよく雑誌やカタログを眺めていた。初任給では初めて機械式時計を購入した」と話す。「時計の小さなパーツには、細部まで工夫された機構や形状がある。それらがまとまった時、細部の拘りの集合として独特の美しさが生み出されている」。
GRのリングをクローズアップしてみると、外しやすくするために細かなローレットがついている。しかし、正面からみた時には溝が見えない。「操作性を考慮しながらも、GRの顔である正面の印象をスッキリさせることで全体の印象も整えた」と話す。
「人と道具はどちらも歩み寄ることができる」と石田は話す。「人と道具が互いに良いパートナーとなるよう、サポートをするのがデザイナーの役目の一つ」と続けて言う。GRの特徴である“片手操作”のしやすさを実現するために、背面ボタン、AFファンクション切り替えレバーの最適な位置関係を検討したり、ADJレバーを以前のモデルよりも突出させたりと操作性の追求を繰り返した。
彼のデザインには「人が道具を永く使い、良い関係を築いて欲しい」という想いが込められている。これから石田の想いは、どんなデザインへと繋がっていくのだろうか。