諸星は今回,水盤をイメージした。空や草木が映し出され自然に一体化している水面。日本庭園にしっとりと佇むような池の水面。透き通るような水面はその場の環境を映し出し,溶け込んでいる。“プロジェクターから映し出される画像が本体の上面に映り,周りに自然に馴染む。いい意味で存在がなく佇んでいる。機器は主役ではない。主役は映し出される画像や使う人。しかし,お客様が使って気分が高揚するようなデザインにしたい。“自然に馴染むデザイン,使っていてなぜか心は弾むようなデザイン。諸星は長く使っていても飽きない商品とはこのようなデザインなのではと考えている。
諸星がインスピレーションを受けるのは”“自然なもの“と”人工的なもの“両方に触れること。山登りが趣味で自然を見るのが好きだし,メカニックな車の細部を見るのも好き。今は双眼鏡に興味がある。レンズを通して遠くのものを大きく見ることができる。まるで“仮想“と”現実“を見ているような感じになる。”“自然なもの“と”人工的なもの”、“仮想“と現実”,諸星は対照的な2つのものに刺激されるようだ。
彼はまた,映像制作にも興味をもっている。“映像クリエーションはとても楽しい。映像を通して多くの人が感じ取ってくれ,自分のイメージを形にできる。“この商品では,映画のプロモーションのようなイメージ映像を作った。映像はプロジェクターを越えた新しい可能性を喚起するものだった。
水盤のイメージは”自然なもの”,映像は近未来な”人工的なもの”,やはり2つの要素が盛り込まれている。
PJ WX4130では今までにない使い方を実現した。従来,プロジェクターとスクリーンとの間には距離が必要で,その間に人やモノが入ると影ができてしまっていた。また,横型の本体は机の上に設置するが邪魔だった。しかし超短焦点投影の技術を利用し,全く新しい縦型のプロジェクターをデザインした。“プロジェクターっぽくないようにデザインしたかった。“壁にピタッと設置でき,手軽に持ち運べ,コンパクトさを実現した。“これからいろいろな使い方を提案していきたい。“と様々な使用状況を想定したイラストを見せてくれた。形が変わることで使い方が変わり,新しい価値が生まれる。使う人にどんな新しい体験を提供してくれるのだろう。
“ここのルーバーが一番工夫したところです。“本体側面にあるルーバーは本体にこもった熱をださないといけない役割。通気性が重要視される。しかし通気性をよくすると内部構造が側面から見えてしまう。外見としても意外と目立つ。そこで,諸星は車のグリルを観察した。一見,全く関係ないものから発想を得る。“内部構造が見えにくいでしょ。“と得意げに話してくれた。
諸星のこだわりは商品のデザインだけではない。開発関係者のことも意識している。“インハウスデザイナーはインテリジェントハブ。関係者をつなぐ,人をつなげる役割がある。“一緒に問題を考え取り組むメンバーに対し,意識を統一させモチベーションをアップさせるためにシンボルマークを作成した。太陽の光が様々な方向に伸びていくようなシンボルマーク。メンバーの力が結集することで商品が完成することを意味している。諸星のこだわりは商品デザインだけでなく,関係者への働きかけと範囲は広い。