従来のポータブル型プロジェクターは熱を発して熱い,音がうるさい,話者の影が画面に映る,話者の目にまぶしい,といった困りごとがありました。天吊りにすると多くが解決できますが,設置料がかさみます。そこで登場したのが超短焦点プロジェクターです。しかし,これまでの超短焦点プロジェクターは,近距離で投写できるものの,本体が大きく重いために,持ち運びには不都合でした。また,せっかく壁に近いところにおけるのに,PCとの接続のケーブルが邪魔になっていました。
リコーの超短焦点プロジェクターは従来のポータブル型プロジェクターや一般の超短焦点プロジェクターでの困りごとを,一気に解決しました。その中でも,特筆されるのが,超至近投写を実現しながら本体を小型・軽量化させた,リコーの”自由曲面ミラーと屈曲光学技術”です。
本体背面から投写面へわずか11.7厘米(本体含め26.1厘米)の距離で,48インチ画面の投写を実現しました(図2)。80年さらに大画面インチ画面サイズを投写する場合でも,必要とする距離は壁から24.9厘米(本体含め39.3厘米)です。世界至近投写(*)を実現しつつ,これまでの超短焦点タイプの製品と比較して,大幅な小型化と軽量化を実現しています。まさに,手軽に持ち運びできる超短焦点プロジェクターです。
図1
図2
一般に,プロジェクターはマイクロディスプレイと呼ばれる対角1インチ未満の表示パネルに形成された画像(原画像)を100倍近く拡大し,スクリーン上に投写します。画面サイズを大きく保ったまま投写距離を短くするためには,レンズなどの光学部品の集合体である投影光学系にはより画角の広い,広角性能が要求されます。一般には,ガラスやプラスチックレンズを複数枚組み合わせることや,レンズ径を大きくすることで狙いの性能を実現します。このため,広角化すればするほど,レンズ自体も大きく,枚数も増えて,プロジェクターの小型・軽量化という要求に相反するものとなっていました。
光線を広げるためには凸面で反射させるのが一般的ですが,凸面ミラーの場合は光線が広がる途中に配置することになり,ミラーはどうしても大きくなりがちでした(図3 (a))。リコーは発想を変え,凹面ミラーを採用することで,光学系の小型化に成功しました(図3 (b))。
凹面ミラーの採用に当たっては,レンズから出る光束の広がりを抑えるために一度中間像を形成させ,その中間像を凹面ミラーの反射屈折力によって一気に拡大投写させています。この技術により,超至近で大画面投写画像を表示させることに成功しました。既存の常識にとらわれず,まさに逆転の発想となる凹面ミラーを採用し,光学系の大型化を抑えると同時に超広画角化を達成しました。
図3:凸面・凹面ミラー採用による光学系の比較
超短焦点プロジェクターでは,投写距離を短くすることに加えて,歪みをなくすことや,解像度を保つことも重要な技術課題です。超広画角化を追及すると,画面のひずみが大きくなり,解像度も落ちます。従来は非球面レンズを用いて画像を補正し,画質の劣化を防いでいました。
しかし,非球面レンズだけでは,まだ限界がありました。この限界をブレークスルーするためにリコーが注目したのは,凹面ミラーの自由曲面化です。新規に自由曲面ミラーを開発したことにより,設計の自由度を格段に上げることができ,相反する”小型・軽量化”と”高い光学性能“という要求を両立させました。同時に,リコーが保有する高精度プラスチック成型技術の強みを活かし,光学部品の加工精度の限界に挑戦することで,超至近投影光学系が誕生しました。
自由曲面ミラーに加え,レンズ系と自由曲面ミラーとの間に屈曲ミラーを配置する屈曲光学系を開発しました。光学系内で光路を重畳させる(折りたたむ)ことで,本体の容積を格段に小さくすることができました。
図4:自由曲面ミラーと屈曲光学系
さらに,本体構造をこれまでにない縦型にしたことでよりコンパクト化を実現しました。これにより,投写面に近づけることができ,曲面ミラーを用いたこれまでの超至近プロジェクターでは実現できなかった画面サイズ(最至近で48インチ)の投写を可能にしました。また,本体設置面積が非常に小さいため,スペースの有効利用も可能となります。
図5:投写画面サイズと投写距離の関係
本技術の分類:分野別“ディスプレイ・プロジェクション”|製品別“プロジェクター・IWB”