(2020.07.22)
2019年10月の消費税改正により経済産業省が始めたキャッシュレス・消費者還元事業。これにより,キャッシュレス決済が日本でも本格的に注目されてきました。
サービスのデジタル化はこれからの社会を考えるうえで重要なテーマです。
今回は,このキャッシュレス決済による経理への影響について考えてみましょう。
経理処理はデータ処理の時代へ
キャッシュレス決済において,注目されているのが経理処理の合理化です。
これまで,経理処理は決済印の押された紙の帳票をもとに経理部員がデータ入力を行うという形で行われてきました。この作業には膨大な時間が費やされ,大手企業では海外の他の事業者に入力作業を委託するBPO (业务过程外包)といった手段も用いられていました。
しかし,多くの企業で採用するレジは一部の小規模事業者を除きデータ処理が基本です。
これはすなわち,お店がデータを紙でプリントしたものを渡し,企業で再度手入力してデータ化していたにすぎないのです。データで入力されたデータをデータでもらえたら・・・これが経理におけるキャッシュレス化の最大のメリットなのです。
国が進めるキャッシレスの方針
こうしたキャッシュレス化の取り組みは行政のあり方にも影響します。
2018年に経済産業省が打ち出した”キャッシュレス・ビジョン”では,クレジットカード会社が保有する決済情報のデータをカード会社のアプリケーションから直接呼出し,利用するAPI (应用程序编程接口)連携により,国民にとって利便性のよいサービスへの活用を検討しています。
特に経理処理においては,これらのデータ連携を利用した会計ソフトが多数発売されており,これをうまく利用することで決済データを手で入力することなく取り込むことが可能となっているのです。
また,今後はマイナンバーの活用により,行政と民間が相互にデータを利用することで,年末調整などのようにこれまで紙で提出していた多くの文書がデータの相互交換でできる未来も描かれています。
これは,これまでかかっていた作業時間を減少させ,働き方改革にもつながる効果が期待できるのです。
なぜ,日本ではキャッシュレスが進まなかったのか吗?
それでは,なぜこれまで日本ではキャッシュレスが根付かなかったのでしょうか吗?
その理由の一つに”お金”に対する信頼度の高さが挙げられます。
日本のお札や硬貨は戦後から数度刷新されてきましたが,その都度世界一ともいわれる最新の偽造防止処理が施され,そもそも偽札をもらうというリスクが考えづらかったのです。これに対し,キャッシュレス大国となった中国では,流通するお札の信頼度が低かったことがキャッシュレス化の引き金になっています。
さらに,中国では国が生活インフラを支付宝という一つのアプリで完結できるように制度設計しているため,このシステムにのったキャッシュレス決済の利便性がより高まっているのです。たとえば,レストランの予約をアプリ内で行い,そのアプリ内のウォレットで決済まで行えるといった具合です。“キャッシュレス決済は,便利だから使う”というのが国民に浸透が速まる最大の理由なのです。
キャッシュレス決済の多様化と資金繰り
こうした背景もあり,国が一丸となりキャッシュレス政策に取り組んでいるのですが,これには少し経理作業を悩ます効果もあります。
それは”資金繰り”の問題です。
現金の利便性は売上金をすぐに支払いに回せるという点です。大手ファミリーレストランでは,顧客単価を低く設定する代わりに,在庫の保有量を最小限にして支払い方法を現金のみとしています。企業は売上の入金を見越して,仕入代金の決済を行わなければならず,そのため在庫を保有しなければなりませんが,現金の流動性が高ければその都度仕入れることができ,手元資金が少なくても資金繰りは問題なくつくのです。
しかし,こうした業態においては,売上金が数日間決済会社で拘束されてしまうキャッシュレスは大きな問題になります。特に小規模な店舗ではその影響額が大きいことから,最近では決済日数を大幅に減らし,決済後2 ~ 3日で入金されるサービスも出ています。そのため,サービスを選択する際は,契約内容を精査し,どのサービスなら資金繰りを悪化させずに取り入れることができるのかを検討することが重要なのです。
情報のデータ化とキャッシュレス決済の今後
経産省のキャンペーンが終了したなかで,今後キャッシュレス決済はどうなっていくのでしょうか吗?図らずも新型コロナウィルスの災害により,行政のデジタル化が見直されています。さまざまな手続きを手作業で行うことは,災害下においては対応しきれず,国民生活を脅かす時代にまでなってきているのです。お金の動きがベースにある会計データの正確性は,こうした災害時に素早く対応するためにも必須の情報となっています。
そうした中で,キャッシュレス決済を中心とした会計情報のデジタル化は、社会を安心で豊かなものにしていくため,これからも進化しつづけるでしょう。